旦那様は社長 *②巻*

「子供のことなら、気にする必要はないわ」


「え?でも……」


「悠星が年内中って言ったのはきっと、私のためだから」


「え、タマコさん?」


「そうでしょう?あなた」


さっきまで会長を本気で叩いたりしていたのに、タマコさんはとても穏やかな表情をして会長の手を握った。


会長は一瞬身体をびくつかせながらも、照れたように顔を俯かせてしまった。


「実はね……」


タマコさんの口から語られた真実。


それを聞いた時、あたしも悠河も涙が止まらなくなった。


タマコさんはもともと心臓に大きな病気を持っていて、子供の頃に大きな移植手術を受けたことがあるほど深刻なものだったそうだ。


だけど大人になって発作の回数も少なくなり、日常生活に何の支障もないほどまで回復することができた。


それが突然一年前、大きな発作で病院に運ばれ入院。


やはり年齢だけはどうしようもなく、たった一度の発作が命に関わることになると医師から告げられ、ずっと入院生活を送っていたそうだ。


「分かるのよ、自分の身体だもの。私はきっと、悠星より先に旅立ってしまう」


笑顔でそう言ったタマコさんがとても儚くて。


本当に身体が透けて見えるような気がして、思わず側にかけよってしまった。


「泣かないで、光姫さん。私はね、私の人生に満足してるの」


タマコさんは笑いながらあたしの涙を細い指で拭う。


“人生に満足してる”


そう言ったタマコさんは、今まで会った誰よりも美しく見えた。


< 395 / 409 >

この作品をシェア

pagetop