旦那様は社長 *②巻*
数百年前から受け継がれている、有栖川の“しきたり”。
それがこの巻物に全て記されている。
まだ全てに目を通したことはないけれど、考えただけでも身震いがしてくる。
その箱をテーブルの上に置くと、タマコさんはそっとその巻物を取り出した。
「私も随分苦しんできたわ。有栖川のしきたりに」
巻物を広げて目を通しながら、タマコさんは昔話をあたしたちに聞かせてくれた。
タマコさんもあたしのように、有栖川の跡継ぎを作ることにとても苦しんだそうだ。
それもそのはず。
あたし以上の苦しみだったに違いない。
タマコさんは心臓に不安があったから、子供を産むことは簡単ではなかったのだ。
周りのプレッシャーに何度も押しつぶされそうになった。
だけど子供はなかなかできなくて。
そんな時、会長が父親に「タマコの身体が大事だ」と言って、ずっとタマコさんを冷たい風から守っていたらしい。
「悠河はやっぱり、悠星の血を引いてるのね」
そう笑ったタマコさんは本当に嬉しそうだった。
「やっと授かった悠河の父親を産む時は、私も命がけだったの。だけどぜったい、悠星を父親にしてあげたかった。あの頃はその思いだけだった」
「あ……」
「あなたも同じでしょう?光姫さん」
「は……い……」
「私はあなたの一番の理解者になれると思うわよ」
「ふ……ッ」
情けないけれど。
本当にタマコさんが母親みたいに思えて、あたしはタマコさんの膝の上で泣きじゃくった。