旦那様は社長 *②巻*
「悠河、光姫さん。この巻物はもう、あなたたちには必要ないわ」
「え?」
「私たちが過去に縛られる必要なんてどこにもない。だって、私たちは“今”を生きてるんだから。こんな古いしきたりなんて、今時流行らないわよ」
タマコさんは手にしていた巻物をポイッとゴミ箱に投げ捨てた。
「あースッキリした!死ぬ前に、ぜったいこうしようって決めていたのよね」
満足そうに笑っているのはタマコさんだけで。
会長も悠河もあたしも、石のように固まった。
あんなに大事にされていた有栖川の伝統が……。
もちろんあたしも従うつもりなんてなかったけれど、恐怖の存在だったあの巻物が……
あっけなくゴミ箱へ……?
固まるあたしの頭をタマコさんが優しく撫でてくれて、そこであたしは意識を取り戻した。
「タマコさん、あのっ」
「これからの有栖川を作っていくのは、あなたたちだから」
「え?」
「有栖川が本当の意味で豊かになれるように、あなたたちが変えていけばいいのよ」
「タマコさん……」
「今の悠星はきっと、私と同じ気持ちだと思うわ。……ね?」
振り返ると、会長が見たこともないくらい優しく笑ってそっと頷いた。
「会長」
「私は歴史を繰り返すところだった……」
最後に会長はもう一度、悠河とあたしに頭を下げて言った。
「有栖川の未来を、頼む」