旦那様は社長 *②巻*


「子供できても、お前が育てればいい。オレだって、自分と同じ思いを自分の子供にさせたくなんかないからな…」


少し眉毛を下げて微笑を浮かべながら社長が呟く。


「悠河……」


気付いてる?
今ね、無意識のうちにあたしを抱きしめてる腕の力…強まったんだよ?

やっぱり子供の時、寂しい思いをしてたんだねーー。
有栖川の人間だっていう自覚から、「寂しい」って…口に出せなかったの?


「お前が言う通り、子供は実の親の元で育てられるほうがいいに決まってる。オレは物心ついた時から両親は仕事でほとんど家にいなくて…いつも乳母に預けられてたんだ。まだまともに喋ることもできないガキだぜ?親の顔なんかすぐ忘れちまってて…親に抱かれると泣きじゃくってたんだと、オレ…」


「…そっか……」


何か気の利いた言葉をかけてあげたかったけど。
小さい頃から両親に愛情一杯もらって育てられてきたあたしには、社長の苦しみなんて想像もつかない。

そんなあたしに…かけられる言葉なんてなかった。
あたしがかける言葉なんてきっと…社長にとったら安っぽいセリフにしか聞こえないーー。

だからあたしは黙って、社長の話を聞いた。


「前にお前をコスモス畑に連れて行っただろう?」


「うん。本当にキレイなところだった」


「オレの両親との思い出は、あのコスモス畑だけだよ」


「……え?」


「家族旅行にだって行ったことないんだぞ?オレ。行ったのは、あのコスモス畑だけだ。他に思い出なんて…何もない。オレが8歳の時、両親は事故で突然オレの前からいなくなった」


「8歳…?」


「驚いた?何気にドラマみたいな人生だろ?オレ」


いつものように少しおちゃらけて社長は笑う。
でもあたしには、それが無理して笑ってるようにしか見えなかった。





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