線香花火
「え、浴衣?」
しれっと言ってのけたその言葉は、何これ、ってのへの返事なんだろうか?
しかも、浴衣ってこんなに粗雑に扱っていいはずないよね?
「いいから着なよ、お祭り始まっちゃうし。早く行こー」
「え、今何時?」
訊きながら、壁にかかった時計に目をやる。
針は午後1時をとうにまわっていて、えぇっ、と小さく悲鳴を上げた。
まさか、こんなに寝ていたとは。
「何時と思ってたの」
あたしの表情に、サユリちゃんはくすっと笑った。
……少なくとも、午前中だと思ってた。
なんて答える気もおきず、あたしは曖昧に笑い返す。
まぁ、サユリちゃんが楽しいならいっか、次いつ帰って来るかも分かんないし。
と、楽しそうにあたしに浴衣を着付けている彼女をぼんやり見ていた。