線香花火
きっと、どんなシチュエーションで、どれだけ甘い響きで囁かれたって、あたしが酔わされるのは彼にだけだって。
ストレートにその、ぶっちゃけて言えば、……好き、ってこと。
意地ばかり張って、結局言えないままだったけれど。
だからこそ、仕舞いこんだ言葉は未だ胸の内で燻り続けているのだと思う。
いっそ鮮やかに玉砕していれば、この、もやもやした感情も、少しはマシだったのだろうか。
不意に吹き抜けていった風に、あたしは身体を震わせた。
昼間あまりにも暑くて、めちゃくちゃ薄着でいたせいで、今頃になって冷えてくる。
気だるい暑さは1日中続くと示していた天気予報は、どうやら外れたらしい。
夕暮れを思わせる空の色もだんだん夜へと向かってきたので、あたしは重い足を動かして家路についた。