禁断のドラムヴィーナス
「えっと高1c組千倉仄佳です。好きな芸能人は舘ひろしさんです。よろしくお願いします♪」
ダンス部の自己紹介。閖亜先輩はめちゃくちゃツボった後、
「水城閖亜です。よろしくね。」
と笑っていた。ダンスが上手くて、明るい。私はそんな閖亜先輩が好きだ。だけど、いつまでも暗いままじゃ、閖亜先輩に、何コイツって思われるよね、と一人考え、竜矢のことは忘れて明るく振る舞おうとした。だけど暗い人間はやっぱりどうあがいても暗い人間で、竜矢が死んだあの日と同じように精神的に追い詰められていった。
「仄佳ちゃんどうしたの?何か言われてるの?」
精神的に追い詰められていく私に、さらに追い討ちをかけるように聞いてきた先輩もいた。竜矢を失ってオタになった私を見て、私の友達は次々と掌を返して、私と距離をとるようになっていった。裏切られるのが怖くて、一人ぼっちにされるのがイヤで、高1のダンス部員と距離を置いていた。過去を隠して偽りの笑顔を向けて、明るく振る舞って。本当の私は明るいのが自慢の元気っ娘。あの事件以来、偽ってしか笑うことが出来なくなり、一時期ヤンキー軍団に所属していた経験(しかも団長)があったりして、暗い子なのに、無理して明るく振る舞っている。今の私は作り物。人形と何ら変わらない。言われた通りに動こうとする、話す人形。
「じゃ10分休ー憩。」
水を飲みに校舎内に入った私。その耳に入ってきたのは軽音部の音楽だった。惹き込まれるような16ビート。瞬時に竜矢のそれと重なり、私は息が出来ないくらいの発作にその場にしゃがみ込んだ。
「竜…矢」
竜矢が亡くなってからドラムを聞くと発作を起こす。あの日もそうだった。竜矢の遺品を整理していたあの日も。




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