禁断のドラムヴィーナス
「ごめんね仄。手伝わせちゃって。」
「いいえ。これはこの箱で良いんですか?」
私はあの日竜矢のお母さん・玲美さんと彼の遺品の整理をしていた。今、私の掌中にあるのは竜矢の叩く、『ディスコ・パーティー2』のCD。
「あ、それ仄にあげるって言ってたデモCDみたいなモノだけど…。聞いてみましょうか。私、ドラムの技術のことは分からないから、仄が私にも分かるように説明してくれないかしら?」CDを差し出す玲美さん。その白い指はCDデッキを指差している。
「ハイ。私に出来ることなら喜んで。」
ディスコ・パーティー2のデモCDをデッキに入れる。流れてくる懐かしい竜矢のドラム。独特のハイ・ハットとアドリブフェルインに胸が締め付けられるような感覚に囚われる。どう頑張っても盗めなかった、技術。私はこの最高のドラマーを玲美さんから、玲美さんの手から奪ったんだ。奪ってしまったんだ。
「仄…?仄ー。」
玲美さんの叫びが聞こえた気がした。意識が遠のくのが分かる。玲美さんの左手が私の体を揺らす。私の頬を、玲美さんの涙が濡らす。どうして…?私が玲美さんの大切な一人息子を、竜矢を死なせてしまったのに、どうして玲美さんは、私なんかのために泣けるのだろう?私のせいで、竜矢は死んだのに。全て私がいけないのにー。
「ドクター、ドクター!!仄を…仄を助けて!」
「玲美様、仄佳様は気絶しておられるだけです。少し休めば回復しますよ。」
「良かった。仄…良かったぁ。」
「…。」



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