『幸せ』を抱いて
『幸せ』を抱いて
「この子が、ずっと幸せでありますように」
お母さんの声。
暖かい声がする。
目を開いても辺りは暗闇。
優しく、ぼくの安心感を紡いでくれる暗闇。
そこに響く、お母さんの暖かな声。
その暖かな声を、記憶から引っ張り出す。
『ずっと幸せでありますように』
しあわせ……?
「しあわせ」って何だろう。
お母さんの声だからなのか、なんだか優しい響き。
『しあわせ』
ぼくはこの言葉を知っている気がする。
記憶を探る。
大海の様に広がっている記憶の中へ潜っていく。
うん。
確かに知ってるよ。
「幸せ」でしょ?
いつだっけか…。
この言葉を知ったのはいつだったっけ…。
遠い遠い昔の様な、ごく最近のことの様な。
ひどく曖昧な記憶。
だから、確かめたくて、また潜ってみる。