鬼の花嫁
そしてとうとうその時はやってきて、
私は祭りの夜に見たような籠に入れられて
白洞山に連れて行かれた。
籠に乗せられる前に尚太郎の事を聞いたが、
誰も教えてはくれなかった。
最後に一言伝えたいことがあったのに。
雨はなぜか止んでいて、
分厚い雲の切れ間から刺すような橙色の、
いや、緋色の太陽の光が籠の中にまで入ってきた。
それは私の未来を暗示するものなのか…
お父さんとお母さんは私が生贄になることを知っているのだろうか。
私が朝からいなくなって、帰って来ないと心配してるのではないだろうか?
お父さんの事だ、村中探し回っているのではないだろうか。
お母さんも、心配性だから今も家の戸口で私の帰りを待っているかもしれない。
お母さんから聞かされた話だが、私が小さかった頃山の中で迷子になったことがあったそうだ。
本人である私はよく覚えていないのだが…。
その時も大変な心配をかけただろうに、また心配をかけるなんて。
しかも今回は家に無事に帰れるはずない。
私は親不孝者だな・…。
最後に、感謝の言葉と、謝罪の言葉を伝えたかった。
考えれば考えるほど両親に会いたくなった。