鬼の花嫁
残っている力を振り絞り、
顔をあげると見たことの
無い人が自分をじっとみていた。
「お主…名は?」
見たことは無いが、
何故か尚太郎にはその人が
『人間では無い』
ことがわかった。
「……………尚太郎。」
だが不思議と怖くはなかった。
それは自分に死が近づいているからか…、
「憎しみは更なる痛みと悲しみを生む。
お主はそれでも生きたいか?」
尚太郎は何を言われているか
理解できなかったが、
『生きたい』
『まだ、死にたくない』
『まだ、死ねない』
その思いを必死に伝えた。
「…………どうしても、
助けたい人がいるんです、
まだ死ぬわけには…いかな………。」
最後まで言い切れず、力つきた。
だがその言葉だけで十分だった。
「お主の思いは伝わった。」
それは、そう言って尚太郎を担ぐと、
山の奥深くへ入って行った…。