すべてのモノは夢を見ている
…その瞬間、
あの夢で見ていたベッドの上で目を開きました。


目の前には30才のハルの姿と白衣のお医者さん、
そして両親も妹も泣いていました。


「香織!」 「お姉ちゃん!」

私は起き上がれない体の代わりに、
両手をいっぱいに伸ばしました。

ハルが近づいてきてくれました。


「お帰り、香織。」

「ありがと、ハル。教えてくれて。」


優しくハルは微笑みました。



ゆっくりと起き上がると
病室の窓際には黄色い花、

天井からは紙でこしらえたトンボの模型、

壁には18個のてるてる坊主が掛かっていました。


「あなたが意識が戻らなかった間、晴男君が一日一個づつこれを作ってきてくれたのよ。」

「…でも、なぜ?ハルはどうやって私を助けてくれたの?」


私の家族はなにやら訳の解らない顔をしていました。


「何言ってるの、香織。晴男君もあなたと一緒に事故に逢って大怪我しているのよ。3日間意識がなかったんだから。」

「俺が目を覚ましてからもおまえは18日間意識なかったけどな。」

「でも、…私たち一緒にいたよね?教室で。」

「…」

「何言ってるの香織。先生、香織は…」

「お母さん、大丈夫ですよ。あの大きな事故での意識不明だったんです。少し記憶が混乱しているんでしょう。」


ハルは優しく頬に触れて微笑んでくれていました。


「…今は何も考えずにゆっくり休みな。」

「うん。」


私はハルの言うとおり、ベッドに横になりました。

眠くはなかったけど、頭の中を少し整理したかったんです。


教室での事も、

思い出した現実の事も、

静かにひとつづつ考えてみたかったんです…

思い出のように…
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