命のひきかえに(臓器移植編)(超短編小説)
アメリカ。サンフランシスコ。

だが、1カ月たっても、ドナー(臓器提供者)は現れなかった。アメリカのどこかの子供が死ななければ、臓器は回ってこない。

移植とは言っても、子供の誰かが死ぬことを、陽子は待ち望んでいるのだ。合致者が、事故などで死亡してくれなければ、佑太は助からない。

アメリカ国内で、1日に数100名以上の子供が事故・事件・病気などで死んでいる。その中で、お互いに生体が合致する確率も低い。

遺族が、臓器提供の意思表示を拒否するかもしれない。快く、承諾してくれなければ、佑太に未来はない。せっかく渡米しても、生存の確率は低いであろう。

子供の1人が死に、子供の1人が助かる。我が子が死んで悲しむ家族がいれば、死んでもらって喜ぶ家族もいる。残酷な現実でもある。

一抹の希望もなく、佑太は死んだ。陽子が部屋を空けている間に、モニターの機器類が停止していた。佑太は移植を受けられずに、短い命を絶つのであった。陽子は、泣き崩れるしかなかった。

医師が、「臓器移植の承諾」を陽子に求めた。心臓以外の、大半の臓器は健康だ。移植に使用できる。現在アメリカでは、5人の子供が、佑太の臓器を欲しがっている。待っている。

佑太の住所・氏名を知れば、親族たちは大金をはたいても、これらの臓器を売ってくれと迫ってくるだろう。

脅迫してくるかもしれない。殺人事件に発展するかもしれない。臓器提供は、善意で無償で極秘で進めなければならない。

誰に臓器を提供するのか、誰から臓器をもらうのか。それを知っているのは、NPO団体だけだ。

臓器移植は無料の奉仕だ。それは、お互いに知らないことで成り立つ制度である。

だが陽子は、移植を拒否した。我が子の身体が、切り刻まれるのだ。遺体を日本に運んで、安らかに眠らせたい。完全な身体で、生涯、供養したいとそう思った。
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