モラルハラスメントー 愛が生んだ悲劇
初夏を迎える頃、裕子の母親から電話があった。
「引っ越しの件、直哉さんと話し合いしてる?
裕子の犬のこと、どうするのかしら?
どんどん大きくなっちゃって、古いマンションだから下に響くって苦情がきちゃって困ってるのよ。」
裕子はその晩、その旨を(夫の機嫌を伺いながら)告げた。
『ふーーーん・・・・・
で? 俺にどうしろと?』
直哉は目も合わせない。
「いや、だからその、犬の飼えるマンションに移る件だけど・・・」
『 は?! 犬なんて飼えるわけがないだろ?
会社だって大変なんだよ。
それに俺、犬アレルギーなんだよ。言ってなかったか?』
「そんなの聞いてないわよ。 約束したのに・・・今更、酷いよ。」
流石に抑えきれなくなった裕子に、直哉はまくし立てるように怒鳴った。
『だいたい俺、犬見て可愛いだのなんだの言うような奴が大っ嫌いなんだよ!
どうせてめーの食うものが無くなれば、犬だって食うんだろ!?
お前らみんな、偽善者なんだよ!!』
裕子の目から、涙が溢れた。
「酷い、酷いよ・・・ 」
翌朝、会社に早くから出掛けた夫から届いたメールには、URLだけが貼付けられていた。
そこをクリックすると、〔犬猫の里親募集〕というサイトが開かれた。