モラルハラスメントー 愛が生んだ悲劇
アルコール依存
元々、直哉は酒を飲むのが好きであったが、会社の経営状況が悪いらしく、それに比例するように酒の量が増えていった。
『俺は家に帰って、裕子の美味い料理と酒が飲めるから仕事を頑張れるんだ。』
酔って機嫌がいいと、直哉はしきりに妻としての裕子を大袈裟に褒めちぎった。
しかし、目つきが怪しくなるほど飲むと、態度が著しく豹変するのだ。
『お前の昔の男をここに呼んでこいよ。
空手やってたんだっけ?
自慢してるお前が一番阿呆だけどな。
俺がボコボコにしてやろうか。
所詮お前、女のくせに仕事ができるとか勘違いしやがって。
下心で仕事とってただけなんじゃないのか?
男が大っ好きなんだもんな〜裕子は!この淫乱が!!
何人とヤったんだよ?きったね〜身体だよなぁ。
いいねー、女は能力なくても売る物があって。
ねえ?返事は?聞いてんのかよこのブス!
』
沢山の醜い言葉に、最初はショックで怒ったり泣き出したりして反発した裕子だったが、だんだんそんな気力すら無くなっていった。
毎晩まともに眠らせてもらえないことも、その要因だった。
深夜になれば、夫が妻から布団を剥ぎ取り、話しかけてくるのだ。
『ねぇねぇ、僕のこと、嫌いになった?
また出てくんでしょ?ねぇって。
どうせ、裏切るんでしょ?
ねぇ・・・・
おいてめえ、シカトするんじゃねぇよ! おいっ! おーいっっ!!
返事しろよ こらぁっ ブスがよぉっ』
そんな次の日の夫は決まって二日酔いで、死んだように夕方まで眠りこけ、会社を休む。
『口出しするなよ。社長の特権だろうが!』
毎日、毎晩、このようなことが繰り返されていた。
いくら咎めてもどうにもならなかった。
裕子は医者に行くと、軽い鬱病を患っていると診断された。
そしてカウンセリングをした医師が、重い病を宣告するような口ぶりで言った。
『病気なのは旦那様です。できるだけ早く、ここに連れて来なさい。』