獣闘記
強かった父の姿を、龍太ははっきりと覚えている。


しかし、それ以上に父の敗北を、死を、覚えている。


その日は唐突に訪れた。


龍太が6歳になった冬のことだった。


二月の夜、繁華街を父と二人で歩いていた時、後ろから急に声をかけられた。

「どうだい?俺と立ち合わねぇか?」
低いが、よくとおる心地よい声だった。


振り返ると、5人の男が立っていた。


5人とも、一目で何らかの格闘技をやっていることがわかる、そんな体だった。


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