獣闘記
「空手、か…」
敏彦は小さく呟いてその男たちの拳を見つめた。


普通、拳を握れば骨が浮き出る。
しかしこの５人にはその拳骨がない。
ない、というより、正確には拳骨が平たくなり、一枚岩の様な形になっている。


まるでソフトボールの様な、空手家独特の拳をした５人だった。


「立ち合おうや。」

真ん中にいる黒い革ジャンを着た男が、再び声をかけてきた。

かなり大きめで古い型の革ジャンであったが、全く違和感はなかった。むしろヴィンテージ物の様に見える。

閉じているが、一目でわかる大きな口が笑っている。

まるで、飲みに行こう、と誘っているかのような笑顔だ。


敏彦はその声を無視をして、歩き始めた。


相手は５人だ。素人ではない。殴ること、蹴ることのプロだ。
それに敏彦の服装も、立ち会いに適さない。
綿パンに襟付きのシャツ、ロングコートに革靴である。
< 13 / 22 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop