獣闘記
歩き始めた父に、男はまた声を掛けてきた。

「俺ゃ 南海泰山だよ。プロレスに勝った南海だぜ。やりたくなったろ?」


その瞬間父の顔が凍りついた。

少し前、『力皇が空手に敗けた』という噂が流れたことがあった。

真実はどうあれ、当のMr.プロレスが、その噂を否定しなかった。

敏彦には、それだけで十分だった。

闘う理由ができたのだ。

「場所をかえよう。」

敏彦は、短いがはっきりと答え、男たちについてくるよう促した。


龍太は、隣を歩く父・敏彦が震えているのを感じていた。
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