藤の君へ
「あら、藤。まだいたの?」

明らかに声音が低くなった荻様に藤は頭を下げて慌ててこの場を離れたた。

あー…。


行かないでほしい。

非常に、心から。



「義平殿、申し訳ございません。空気の読めぬ女房故…」

空気読めないのはあんただよ。


「いえ、お仕事は全うするいい女房です」

笑顔で答えてやった。

まぁ、御簾の向こうからじゃ私の表情は見えないだろうが。


「…はぁ…?」


「荻様はあの女房に下がれ、と御命令なされませんでした。故にあの女房はそばに付き従っていたのですよ」


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