硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~
私は、椅子から立ち上がり、車に向かって歩き出した。

そして、七海 龍星の傍まで近づいた。

「待たせたね」

彼は、優しい眼差しで微笑んだ。

「いいえ」

私は、淡々と答える。

「どうぞ」

彼は、その一言しか言わなかった。

私を気遣う様な優しい仕草で、優しい声で。

車で何処に向かうのか、これからどうなるのか聞かされてなかったが、私は、言葉をあれこれ言わず、尋ねず、そっと頷いて、彼の車に乗った。

彼に会うということは、こういうこと。
不安であれば、この人には関われない。

私は、何故か、いつまにかそう思っていた。

言葉なくとも、彼が、私の思考をそうさせたのか。
私の識見が、そうさせたのか。

彼が、車のドアを閉める。
そして、運転席に乗り込んだ。

車が、発進する。


私の知らない場所へ向かって、走りだした。
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