硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~
【考えごとをしてるのかな…】

私は、心の中で呟きながら、様子を見ていた。

彼は、じっとしている様に見える。

私は、考えごとなら邪魔をしては悪いと思い、黙って待つことにした。


暫く経って、未だ何も口を開かない彼の様子に、私は、少し疑問を抱き、時計を見る。

【二時十分…。まだ考えごとをしてるのかしら。着いてから、ずっとここにいる。私、お話を聞きに来たのに…】

あと五分、待ってみる。


【うーん…】

私は、しびれを切らした。

「あ、…あのー」

彼からの、何の反応もない。

聞こえなかったのだろうと思い、私は、さっきよりも声をだして、もう一度言った。

「あの!」

彼からの、反応はない。

「あの!すいません!」

私は、身を乗り出し、運転席に顔を出して言った。

「え、えーっ!?」

私は、自分の目に飛び込んだ光景に、絶句した。

じっと考えごとをしているのかと思っていたら、彼は、携帯でゲームをしていた。

私は、一気に怒りが爆発した。

「ちょっとー!私は、考えごとをしているのかと思って、遠慮して、この長い時間、ひたすら待っていたというのに、何をやってるんですか!?」

「ん?ゲーム」

「見ればわかりますよ!やっとしゃべったと思ったら、ゲームって」

私は、かなり呆れた。

「うん。そう。ほんと、やっとだね」

「やっとですよ!何分待っていたか、わかってます?私、こんなに待つ人じゃないですからね!」

「やっとしゃべってくれたね」

「ですからー、やっとってさっきから、…?…しゃべってくれた…ね?」

「うん。やっとしゃべってくれたね」

彼は、後ろの座席にいる私を見ながら、微笑んでいた。

私は、意味がわからなかった。

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