硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~
「あら~、隼斗くん。隼斗くんも来ていたのね」

他人の子には愛想の無い母は、彼には、満面の笑顔で話す。

「はい。さっき来ました」

「そう」

満面の笑顔で接する母に、笑顔で答えながら、彼は、私を見つめた。
私を見た途端、彼の目つきが変わるように、いつも、そう見える。

彼の表情が、母に向けていた笑顔から変わったわけではないのに、私を見た時の眼鏡の奥の目が、鋭くなったように、偉そうになったように感じるのは、私の先入観だろうか。

「日和さん、おめでとう。春から、また一緒だね。宜しく」

彼は、私の心を知ってか知らぬか、笑顔を崩すことなく、私に話しかける。
その態度が、私は、怖い…

「まぁ!隼斗くんも!おめでとう」

母は、大変嬉しそうに、透かさず、彼に言った。

「有難うございます」

彼は、母に敬意を表す様に丁寧に御礼を言った。

「日和のこと、宜しくね。うちの日和は、貴方の許嫁なのだから」

「はい。任せて下さい」

彼は、母に誠実に答えている。

私は、そんな彼の横顔を、じっと見据える。


やっぱり………違う…

母と話している時の彼の目と比べても、私と話す時と違う……

私を見る目は、鋭くて、偉そうで、怖い

桐生 隼斗……

私は、

………


この人、好きになれない ………


……嫌いだ……



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