硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~
賑やかな空間から、静かな空間に戻る。

「で、えーっと、何処まで話たっけ」

「あ、えっと、事務所の話」

「あぁそうそう。で、ここは以上」

「はい」

彼は、ゆっくりと窓際に立った。

大きなガラス張りの窓辺に、そっと佇む。

絵になる光景だった。

【ん?ここはってことは、他にもあるのかな】

私は、ふと思う。

「七海さん」

「うん?何?」

「ここはってことは、他にもあるんですか?」

「あるよ」

「ここと同じ様なお店?」

「違うジャンルのクラブもあるけど、他にもあるよ」

「あ、そうか。このビル、七海さんのビルだから、全部の階に七海さんのお店があるんだ。10階あるから…えっ…凄い」

「全部じゃないよ。貸してる階もあるから」

「あぁ。貸したり。なるほど」

「この最上階と九階と七階、四階に店がある。それ以外の階は貸してる。九と四は、人気がなくてね」

「七は?あ、七海さんの七だ」

彼は、思わず笑った。

「うん、まぁ確かにね。七は、好きなんだ。ラッキーセブンだしね」

「そっか。七海さんのお店、他は何ですか?」

「バーもやってるし、レストランも、あとブティック」

「ブティック?」

私は、初めて耳にした言葉だったので、意味がわからなかった。

「高い洋服とか売ってる店」

「あぁ」

彼が、私がわかる言葉で言ったので、すんなりとわかった。

「クラブはわかるの?」

「あ、わからない」

「ま、飲み屋のことだよ」

「飲み屋」

「酒場」

「酒…場」

私は、彼の言葉を復唱しながら考える。

「夜に店を開けて、お客様に、お酒をだして、接客をする所」

「あぁ、はい」

「少しずつね、理解したらいいよ。ま、見たらわかるから」

「はい。私は、どの仕事を?」

「うん」

彼は、頷くと、窓の外に目を移した。

そして、黙り込む。

今度は、本当に考え込んでいる様に見えたので、私は、黙って様子を伺った。

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