硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~
暫く、沈黙が流れる。

少しして、彼は、窓の外を見下ろしたまま、徐に言った。

「人が、沢山…」

私は、彼が何を言おうとしてるのかと、黙って彼を見ていた。

不意に、彼は私を見た。
そして、じっと見つめる。
とても優しい目をして見つめた。

私は、意味がわからずに佇む。

すると、彼は、そっと微笑んだ。

「日和ちゃん、こっちにおいで」

彼の優しい声に心地よさを感じながら、私は、彼の傍へと歩み寄った。

「見て」

「わぁ…」

「ね。見晴らしがいいでしょ。人や建物が沢山見える」

私は、一面ガラス張りの大きな窓からの一望できる光景に、言葉を失う程に絶句し、心を奪われた。

「こんなの見たの、初めて…ほんと、人が沢山…」

「うん。こんなに人がいる中で、俺達は出会ったんだよ。俺が、日和ちゃんを見つけた。そして、日和ちゃんは、話を聞きに、俺の所に来てくれた。夜の仕事、どんなだと思う?できると思う?」

私は、言葉が見付からず、ただ、彼を見据えた。

「いい目をするね」

「え?」

「言われたことないの?」

「ない…」

「へぇー。誰も知らないんだ。またひとつ、君を知った」

【私を?………】

「俺は、夜の仕事、としか言ってないね」

「あ、…はい」

「内容も具体的なことも言ってない。言ったのは、俺の仕事の話」

「はい」

【七海さんは、何が言いたいのだろう…】

私は、彼の言葉を聞きながら、考えていた。

「俺の話は、以上」

「え?」

私は、結局、理解できなかった。

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