硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~
私は、事務所の中へ入る。

「あ、どうぞ座って下さい」

馴れ馴れしいその男性は、慣れない口調で言った。

私は、言われたとおりに、腰おろす。

馴れ馴れしいその男性は、落ち着きのない態度で、テーブルを挟んで、私と向かい合う様に座った。

馴れ馴れしいその男性は、そわそわしながら、座っていた。
言葉を発しない。

私は、その人を見ながら、何故、七海 龍星は、この人に面接を頼んだのか。
どうして、こういう展開になったのか、考えていた。

いろんな言葉が、思い出される。

【人が沢山いる中で、俺達は出会った】

【俺が、日和ちゃんを見つけた】

【俺は、夜の仕事、としか言ってない】

【夜の仕事、どんなだと思う?】

【できそう?】

【いい目をするね】

私の脳裏を、駆け巡る。


「いろんな仕事があるんだよ」

馴れ馴れしいその男性が喋ったので、私は、我に返り、耳を傾けた。

「はい」

「名前は?」

「花瀬 日和です」

「いい目をするねぇ。言われる?」

「ついさっきも」

「マジで!」

馴れ馴れしいその男性は、テンション高い声で言った。

「AVとか興味ある?」

「は?」

「高校生かもしんないけど、大丈夫!君みたいな綺麗な子が出ないと!AV、AV女優」

私は、いきなりでびっくりして、言葉が出なかった。
聞いた事があるので、意味は知っている。

「ここの会社の名前、知ってるよね?」

「アクトレス」

「意味わかる?」

「女優」

「お!英語の成績良い?俺、わからなかったからね」

「………」

「女優にならないと。なりきり」

「女優に?」

「なれない?じゃあ、ここへ来ちゃ駄目だよ。人生は、舞台」

【人生は、舞台…】

私のスイッチが、入ってしまった。

「おっ、また、いい目をしたねぇ」

目つきが変わったのは、自分ではわからなかった。

「私、脱げますよ」

私は、ゆっくりと立ち上がった。

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