硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~
「七海さん …」

私は、急に、彼に会いたくなった。

別に、いつでも会えるというのに、私は、急に、彼に会いたいと思った。

そして、彼の顔を見て、お礼を言いたいと思った。

私は、時計を見る。

「七時か…クラブの店を、開ける時間だったかな…」

彼は、今から仕事の時間となる。

私は、電話をするのも控えることにして、薔薇を見つめていた。

【こんな経験…初めて。映画とかでは見たことがある。子どもながらに、凄いなとかキザだなとか、色々思った。でも…】

私は、嬉しかった。

彼がくれた薔薇だと思うと、感情が込みあげてきて、涙が出そうだった。

でも、こんなに人がいる中で恥ずかしいので、私は、涙を堪える。

けれど、一筋の涙が、頬を伝ってしまった。

「日和、来たよ」

声をかけられたので、私は、慌てて涙を拭いた。

声で、すぐに親友の絵里菜だとわかったので、私は、笑顔で彼女を見た。

「いらっしゃい」

「あれ?泣いたの?」

あっさりと気付かれてしまったことに、私は、恥ずかしくて動揺する。

「う、ううん」

「わかるよー。どうしたの?こんなに沢山の人が来たから、嬉しかったの?」

「え、えぇ、…」

「わぁー!綺麗!」

絵里菜は、薔薇の花束を見て、驚嘆した。

「贈り物?」

「うん」

「へぇ、凄い!男の人から贈り物なんて。しかも、薔薇の花束」

「え…、どうして男の人からだとわかったの?」

「わかるよ。薔薇の花だもの」

「あ…、そう」

「うん。あぁ!これで感激して泣いたのね!」

「え、そんなんじゃ」

「隠すことないじゃない。薔薇を見ながら涙するなんて、日和、大人ねぇ」

「え、…」

「とっても綺麗ね。真っ赤な薔薇の贈り物をするなんて、この男性(ひと)は、日和に愛情があるのね。いいなぁ、想われて」

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