硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~
15分くらい経って、携帯電話の着信コールが鳴った。

私は、バックを手に自分の部屋を出て階段を降りると、母に声をかけて、玄関を出た。

彼が、車を降りて、後部座席のドアを開ける。

私は、車に乗る。

私が座ったのを確認して後部のドアを閉めると、彼は、速やかに運転席へ乗り込み、車を発進させた。

「あっ。この間、ありがとうございました」

「ん?何が?」

彼は、前を見ながら聞き返す。

「薔薇の花」

「え?お礼の言葉は、電話で聞いたけど」

「会って、又言いたくて。初めての経験で、直接会って、お礼を言いたかったから」

「そっか」

「とっても、嬉しかった」

「良かった」

私は、直接言えた満足感を感じながら、外の景色を眺めて、心地よく車に乗っていた。

ふと、ある事を思う。

私は、彼に尋ねた。

「七海さん」

「ん?」

「どうして、いつも私は、後ろの座席なの?」

「前がいいの?」

「ううん、そうじゃないけど、ふと、どうしてかなって思ったの。後ろにも、前にも乗せる人いるでしょ?
七海さんは、いつもドアを開けてくれて、エスコートしてくれる。でも、いつも後ろの席だから、後ろに乗せるって決めてたりするのかなって思ったの」

「うん。決めてる」

「あ、そうなんだ」

彼が、すんなり答えたので、呆気にとられそうになった。

「どうして?」

「後ろの方が、安全でしょ」

「あぁ、それで」

「それと、…」

彼が、言いかけたので、私は、言葉の続きを待った。

「助手席に座らせるのは、俺の女だけって、決めてる」

私は、彼の言葉を聞いて、一瞬、時間(とき)が止まったような感覚になった。

【助手席は…、俺の女だけ…】

彼が、私にくれたもの、かけてくれた優しい言葉が、私の脳裏を駆け巡る。

そして、薔薇の花が…

私は、彼の、私への想いだと思っていたのに、嬉しかったのに、違っていたのか。

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