硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~
車は、間もなく、彼の会社の地下駐車場に着いた。

彼は、エンジンを切り車を降りると、私の座っている後ろのドアを開けた。

私は、降りずにいた。頭では、彼がそう言うのだから、仕方のないことだとわかっていたが、その意識とはうらはらに、私は、内心ではふてくされていた。

「着いたよ」

私が降りないので、彼は、声をかけた。

私は、黙ったままでいた。

ふてくされているのを、彼に気付かれたくない思いはあるのに、私は、車から降りずにいる。

うんざりされたなら、仕方ないと思った。

私は、15歳のまだまだ子どもなのだなと、落ち込みそうにもなった。

彼が、私の横でしゃがみ込んだ。
そして、私の顔を下から覗き込み、優しく声をかけた。

「日和に見せたいものがあるんだ。見てほしいんだ。来てくれないかな」

【日和、…って言った】

彼が、あまりに優しい声で言ってくれたので、私は、微笑んだ。

「笑ってくれたぁ。やっぱり、笑ってくれないと、不安になる」

彼は、安心した顔で、無邪気に笑った。

「来てくれる?」

私は、彼の問いかけに頷くと、車を降りて、彼についていった。

< 56 / 156 >

この作品をシェア

pagetop