硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~
『合格 おめでとうございます』

彼の店の従業員たちが、左右に整列して、一斉に言った。

「あ、有難うございます」

私は、驚愕して戸惑いながらも、丁寧な態度でお礼を言った。

「日曜と祝日は、店は休みなんだ。今日は、日和のためのパーティーにした」

「え、…せっかくのお休みなのに」

私は、彼や彼の従業員たちを見ながら戸惑う。

「明日も祝日で休みだから、皆には、明日、ゆっくり休んでもらうさ」

「…すみません。せっかくのお休みなのに…」

私は、深くお辞儀をした。

「さ!今日は、ここは、日和のための貸し切りさ。見せたいものがある。あれを見て」

そう言って、彼は、真っ直ぐ前方に手を差し出した。

私は、言われたとおりに、その手に沿って前を見た。

「あっ」

シャンパングラスがいくつも重なり、グラスのタワーが出来ていた。
私は、初めて見たので、びっくりして、じっと見とれていた。

彼が、そっと私を導く。彼に導かれ、私は、ゆっくりとシャンパンタワーに歩み寄る。

私が近くまで来ると、
彼の合図で、グラスにシャンパンが注がれ始めた。

シャンパンは、上のグラスから下のグラスへと流れゆき、光を受けて、きらきらと輝く。

それはそれはとても綺麗で、私は、綺麗な光景に吸い込まれそうだった。

「俺からのプレゼントだ。お前のために」

彼は、私の目を見つめて言った。

いつも彼から、お店の話を聞いていた私は、シャンパンタワーの意味や価値を知っていた。
目を見つめられて、そんな言葉を言われたら、普段なら照れて恥ずかしいが、私は、この意味がわかっていたので、照れてずに、彼の目を見て、お礼を言った。

とても感銘していた。

一番下段のグラスまでシャンパンが入り、全てのグラスに注がれて、タワーは崩れることなく成功した。

私は、暫くそれを眺めていた。

彼が、徐に、タワーの一番上からグラスを手に取り、私に差し出した。

私は、そのグラスをそっと受けとる。

彼もグラスを持つと、従業員たちも手に取り、そして、私のために、乾杯をした。

私は、心を打たれた。

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