硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~
家に帰りつくと、早速、母は、御祝いパーティのための料理を始めた。

「お母さん、私は、何を手伝ったらいい?」

「いいのいいの。今日は、貴方は主役だから、何もしなくていいの。座ってて」

母は、笑顔でそう言うと、手際良く料理を進めた。

「そっか」

私は、暫く、母の料理を見つめていたが、徐に、白いソファーに腰かけた。

「お父さん、もうすぐ帰ってくるからね。貴方の口から、合格したこと教えてあげてね。お父さん、喜ぶから」

「はい」

私は、キッチンへ顔を向けて返事をすると、前を向き、目の前のテレビをぼんやりと見た。

そして、ぼんやりと考えていた。

【私は、これでいいのだろうか…】

私は、両親が望む中学校に無事に合格した。
高校も大学も、同じ様に両親が望む学校に挑む。
大学を卒業したら、親同士が決めた許嫁の桐生隼斗とお見合いをし、結婚をする。

結婚することは決まっていても、両親は、形を重んじるので、お見合いをする。
そして、結婚。

将来は、桐生隼斗と夫婦となり、家庭を築くのだと、私の人生は、物心つく前から、親同士により決まっていた。

私の父は、外交官をしている。
桐生家は、代々続く財閥で、ホテルの経営や不動産業を営む。

『彼と結婚して、幸せになりなさい。何の不自由も苦労もない。人間は、お金の無さが一番辛くなる。日和には、そんな苦労はしてほしくないのだ。彼と結婚して、彼を支え、幸せになりなさい』

父の、言葉である。


【私は、幸せになる……なれる?本当?】

父の言葉を聞いた後に、私が、心の中で思ったこと。

私は、今、12歳。

いくら、頭が良いとか大人びてると言われても、12歳なのは確かで、物わかりの良い大人なわけではなく、やはり、結婚とか、まだまだ先の話で…、いつか好きな人…と、夢も見る。

でも、
口に出したことはない。

我が家では、両親の言うことは絶対だ。
それに対して、不満はなかった。

そう、私は、両親に不満はなかったのだ。

その言葉を聞くまでは…

私の中の 私が尋ねる

【これで いいの?…自分の人生だよ?……それで、幸せなら、いいけど…】


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