硝子の靴 ～夜帝の紅い薔薇～少女Ａ～

私は、そっと、
その場を後にした。

七海 龍星の元へ戻っていると、彼は、
私の方へ歩いてきた。

「ちょっと待ってて」

私にそう言うと、彼は、バーカウンターへと歩み寄った。

「涼」

「はい」

黒髪の男性は、彼に名前を呼ばれて、
非常にかしこまって返事をした。

「俺は帰るから、あと、頼むぞ」

「はい」

「女の子が帰ったら、
掃除をさせて、きちんと戸締まりを」

「はい」

彼はそう言うと、
私をつれて店を出た。

彼は、私を車に乗せると、速やかに、車を走らせた。

私の家の前に、到着する。

「よし。
門限を過ぎてないな」

彼がドアを開け、
私が車から降りると、
彼は、腕時計を確認して微笑んだ。


「七海さん」

「ん？」

「有難うございました。安いものでもないのに、私のために、
シャンパンタワーを
作ってくれたなんて…
感激です。
グラスにシャンパンが
注がれて、
きらきらとした、
グラスの輝き…
初めての経験をさせて
もらって…。
私は、勿論今までは子どもだから当然だけど、
私が大人になったとしても性格的に、クラブに行けないと思うから、
七海さんと出会わなかったら、私は、
こんな経験は、
できなかったと思います。
一生、忘れられない…」

私は、感極まって、
涙が出た。

「おいおい、
日和は、
感受性が高いんだな」

「ごめんなさい」

私は、慌てて涙を拭う。

「良いことだよ。
そんなに喜んでくれて、プレゼントをした
甲斐があったよ」

彼は、私の頭をそっと
撫でながら、
優しい眼差しをした。


「日和」

私が涙を拭いきるのを
待っていたのか、
少しの沈黙の後、
彼は、改まって、
私の名前を呼んだ。

私は、彼を見上げる。

「日和は、まだ１５歳。これからまだまだ、
初めての経験を、
沢山する。
お前が未だ知らない、
素敵な未来がある」

私は、期待を胸に、
頷いた。