硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~
私は、知らない男子だったので、彼が私を見つめるのを、不思議に思いながら、ただ漠然と見ていた。

彼は、色白で、日本人離れした顔立ちの人で、澄んだ眼差しで私を見つめる。

【何?……】

私は、少し人見知りもあり、声にならない。

すると、彼は、ほくそ笑んだように、そっと笑った。

私は、気分を損ない気味になる。

自分に対して謙虚に接する者はいても、対等に、もしくは、上から目線で接された事がなかった私は、彼が、そんな態度を取ったように見え、私は、戸惑いを覚える。

でも、初対面の人に言葉を投げかけるつもりのない私は、その場から立ち去ろうと、彼から目をそらし、歩き出そうとした。

すると、彼は、優しい声で口を開いた。

「心配してましたよ」

「え?」

私は、思わず彼を見る。

彼の声は、似ていた。

さっきの『泣かないで』の優しい声に。

でも、少し、彼の声は、その声より若い気がした。

「見かけた女の子達が、『日和さん、泣いてる…どうなさったのかしら』って。僕も」

「え、…あぁ…」

私は、見られていたことが恥ずかしくて、言葉にならなかった。

それと、

彼の口から、私の名前が出たので、私は驚いた。
女の子が言ったとおりに言っただけなのか、それとも、私は彼を知らないのに、彼は私を知っているのか。

「あの…」

私の言葉に、彼は、『何?』というような耳を傾ける姿勢になった。

「あの、私を知ってるのですか?初対面ですよね」

「初対面ですね。でも、僕は知ってましたよ。日和さんは、成績優秀で、有名人ですからね」

「そんな、…そう、ですか。ご存じで」

私は、自分がそう言われて、何て言葉を返したらよいのか思いつかず。

「大丈夫ですか?」

「え、えぇ…」

彼は、それからは何も言わず、何も聞かず、桜の木を見上げた。

私は、そんな彼の横顔を見ながら、声が似ていたことを、不思議に思っていた。

そよ風が、優しくそよぐ。

私も、桜の木を見上げた。

暫く、二人とも、黙って桜を見ていた。

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