硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~

龍星の車へと向かう途中、



日和の足取りが止まった。


それに気づき、

龍星は、振り返る。


「どうした?」


日和は、

さっきの女性の言葉を思い出していた。



― あんたは
龍星さんと釣り合わない ―


― 龍星さんには
儷美子さんがいる ―


― 無垢は無垢のままでいなさい ―



日和の中で


何かが 弾けた



「日和ちゃん?」


日和の様子を不思議そうに見る龍星を、

日和は、まっすぐに見つめた。



その
らしくない様子を

龍星は、不思議に思う



「七海さん」


「ん?」


「さっき…
ちらっと言ったみたいに

日和 って呼んで下さい」


「あっ…気づいてた?」

龍星は、照れ笑いをする。


日和は、まじめに
澄んだ眼差しで、
龍星を見つめていた。

そんな日和に戸惑う…


「あ…、うん」


「七海さん」


「ん?」


「私、

七海さんのビルの
他の階も見たい」


「えっあぁ、いいけど。
どうかしたの?

いつもと様子が違うけど」


「ううん。

どうかしたとか…
そんなんじゃなぃ。

ただ、
七海さんのことが知りたいの」


「え…」


好意を持つ相手の言葉に、龍星は、
久々の 心の動揺を感じる。



日和は、

恥ずかしげもなく言った自分に

新鮮さを感じた ――


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