硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~
僅かな時間だっただろうが、長い静けさを感じた。

静かだったが、綺麗な桜を見ていると、穏やかな気持ちになった。

静かで、穏やかな時間が流れる。

私は、久しぶりに、快い気分になったような気がしていた。



「その眼鏡、度は入ってないでしょ。だって、日和さん、目、悪くないですものね」

静かな時間の流れの中で、彼が静かに口を開いた。

「え?」

私は、度の入っていない眼鏡をはめている事は、敢えて、誰にも言っていないので、初対面の人から言われるとは思ってもなく。

「でも、眼鏡をするのですか?お母さんの要望どおりに」

私は、驚愕した。

「何で、それを…?」

確かに、彼の言うとおりである。

私の眼鏡のレンズには、度は入っていない。

母は、頭の良い人が好きで、見た目も賢く見えるようにしたいがために、眼鏡をしていると知的に見えるからと言い、私に眼鏡をかけさせた。

「何で知ってるの!?」

彼は、ほくそ笑んだ。
「さぁ」

「初対面なのに、なんだか、妙な気分だわ…」

私は、彼に対して疑問や不信感を抱き、彼から目をそむけ、距離を置こうとした。

そんな私を察したのか、彼は、少し慌てたように言う。

「ごめん、ごめんなさい。気を悪くしたなら、謝ります」

そして、こう続けた。

「何故知ってるのかというと、それは、僕が、日和さんのファンだからかな」

彼が突拍子もないことを言ったので、私は、思わず吹き出した。

「ファン!?ファンって何?私、芸能人でもないのよ!」

「そうですよ。でも、ファンになる事はありますよ」

「えぇ?…」

私は、苦笑いをした。

「そう思いませんか?」

「えぇ」

「そうですか…残念だなぁ。ま、仕方ないです。理解や共感は、人それぞれですし。ただ、僕は、日和さんのファンですよ」

「………」

私は、彼のことを、変わった人だと思った。
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