「さよなら」も言わずに。
少しすると、家のチャイムが鳴った。

-ピーンポーン-って。

「はぁい。」

お母さんの声が聞こえる。

私は、お母さんの声を聞きながら

部屋で涙を拭き、鼻をすすっていた。

声にならない声。

涙だけが、私の味方をしてくれている気がした。

「雷霧、お客さぁん!」

普段、私の家になんか誰も来ない。

友達でさえも、家に呼ばない。

私にお客さんだなんて、すごく珍しいことだった。

-ガチャ-

小さな音とともに、開いた私の部屋のドア。

その向こうに立っていたのは、

心配そうな顔をした尚人だった。

「な…おと?」

部屋の中に入ってきた尚人は、

自分の携帯をいじって、私に画面を見せた。

『何があった?!
雷霧、大丈夫か???』

声にはならなかったから、

大きく頷いた。

『何があった?』

尚人からの言葉。

心配してくれてるんだね…。

尚人は、私の味方なのかな…?

声に出そうと思ったけど、

やっぱり声にはならなくて

私も自分の携帯で文字を打った。
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