「さよなら」も言わずに。
家を出て、本屋までの道のり。

私と尚人。自然と手を繋いでいた。

2人の間には、会話が無く、

静かな時間がゆっくりと流れる。

…ふと、そんな時間が止まった。

本屋の近くの交差点についた時、

もしかしたら浩介の家かもしれない…。

そんな不安が出てきたからだ。

本屋の目の前でピタリと止まった。

「ん?」って顔で、私を見つめている尚人。

焦りとか不安とか、そんなんでいっぱいいっぱいな私。

『大丈夫。俺の家だから!
浩介のとこじゃねぇよ』

あ―

私、何も言ってないのにね。

分かってくれた。

ギュッて尚人の手を握ると、

尚人はニコッて笑って歩き出した。

尚人の言った通り、浩介の家とは逆方向の

本屋の裏道を通って行く。

2歩後ろから見る尚人の背中。

なんだかね?

すっごく大きくて温かく見えた。

細い裏道を通って少しすると、

小さなマンションが見えた。

小さいんだけど、すごくオシャレなマンション。

「あそこ?」

そう聞くと、軽く頷いた。

< 39 / 57 >

この作品をシェア

pagetop