「さよなら」も言わずに。

優しい香り。

尚人の部屋で2人きり。

少し寒い秋の季節。

大好きな彼と2人きり。

あ…。

尚人、今私の彼氏なんだよね。

そんなこと思って、1人ニヤける。

『どうした?』

私の顔を見て、尚人が不思議そうな顔をする。

温かくて、優しい感じ。

「ううん。なんでもない。」

と、顔を横に振る。

広い、広い部屋の中に響くのは

テレビの音と、私の声だけ。

尚人の声は…、聞こえない。

尚人の声で返事、欲しかったな…。

声聞きたいな…。

なんてね、ワガママもいいとこだ。

尚人、まだ喉悪いのかな?

風邪治ってないのかな?

バカみたいに、1人で考え込む。

『雷霧?なんかあった???』

声のこと、聞いちゃいけない気がしてきて

「ううん。」

と返事を返す。

くすぐったくて、恥かしい感じ。

「お兄ちゃん、入るねぇ。」

急に声がして、ノック音が聞こえ、ドアが開いた。

「…誰?」

少し怒っているような、そんな感じの顔の女の子。

私と、そんなに年が変わらない感じの子。
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