「さよなら」も言わずに。
「どう?
これでも、お兄ちゃんと付き合っていける?」

「……。」

言葉が出てこない。

「大丈夫だよ、そんなの。」って

言えるはずだったのにな…。

返事、出来ない。

「うん。」って言えてない自分が居る。

「お兄ちゃんさ、今まで傷ついてきてんの。
付き合ってきた人、障害のこと知って
みんな離れていった。
もう辛い思いさせたくないの。」

お兄ちゃん思いの子なんだね、香奈ちゃん。

私の頭の中、真っ白だった。

―ガチャ―

ドアの開く音が、ハッキリと

鮮明に聞こえた。

何も言わずに、部屋に帰ってきた尚人。

何も言わないのは、障害で喋れないから―

分かってると、分かってるなりに

苦しいんだね…、やっぱり。

いつも通りにお兄ちゃんと話してる香奈ちゃん。

1人だけ、俯いて

床とにらめっこしてる私。

空気が重く感じたのは、きっと私だけなんだね。
< 51 / 57 >

この作品をシェア

pagetop