続きは、社長室で。2
至願の、始まり。
貴方を最後まで信じ続けているから…、泣かない――
大丈夫だと信じているからこそ、泣いたりしないから・・・
桜井さんがアウディを運転すれば、誰のモノか分からなくなる錯覚を覚えさせた。
「拓海のコト…、聞いているね?」
「っ、はい・・・」
走行し始めて暫くすると、桜井さんは前方を見据えたまま尋ねてきて。
後に続く言葉が怖くなり、拳にギュッと力を入れて返事をするだけに留めた。
軽快なハンドル捌き、滑らかで一定の走行スピード、ブレーキの踏み具合。
鼻腔を掠めていたホワイトムスクの香り、運転する精悍さを漂わす横顔。
すべてに違いを見つけては、貴方の姿が思い浮かぶから堪らなくなるの…。
今まさに車内に漂うのは、桜井さんが纏っている爽やかなシトラスの香りで。
いつでも安らぎを齎してくれる、拓海の香りではナイ・・・
そんな心情を読み取られていたのか、少しの間を置いて彼が話し始めた。
「大体の話は聞いたと思うけど…。
実は夫人に頼まれて、蘭ちゃんの荷物とパスポートを預かって来てる。
これから空港まで送るから、現地に向かって欲しいんだ」
「ど、して、桜井さんは…?」
1人で現地へ向かえという言葉に、やっぱり動揺を隠しきれなかった。