続きは、社長室で。2


乗務員やパイロットたちは皆が、シートベルトを着用していたのに。



カバンから何かを取り出そうとしていた拓海だけが、命綱をしていなくて…。




乱れ狂うほどの惨憺(さんたん)たる状況の機内で、頭を強打したらしい・・・




分の悪いことに、ロス出張期間としている最中の出来事であって。



社長の拓海が意識不明の重体という事態を、世間に知られる訳にはいかない。



すべてを内々で処理する為に、東条グループ内の重役たちが奔走しているそう…。




さらに社長の代理業務をしている桜井さんが、こちらに向かえるハズなどなく。



理沙子さんも駆けつけたいのを堪えて、私1人を送り出してくれたのだ。



もし彼女が動いてしまえば、どこからともなく察知されかねないから…。




そう…、貴方の許に迎えるのは私だけなの…――





「…着いたよ、行こう」


「っ、はい!」


バンッ――

病院の駐車場に停車すると、雑念を払うようにドアを勢いよく閉めて走り出した。




「っ・・・」


想像すら憚られるほど怖いけれど、拓海に会いたいの・・・



真夜中で暗がりの中を、サイパン独特の潮風の香りが鼻に纏わりついていた…。




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