続きは、社長室で。2



どうして、そんなに冷たい瞳を向けるの・・・?




呆然と立ち尽くしたままでいると、杉本さんがナースコールで看護師を呼んでいて。



あまりに重い空気が立ち込めている中で、駆けつけた医師に問診を受けていく拓海。




自身の名前、家族構成、職業という身近なものから始まった診断だけれど。



抱えている仕事の内容や人間関係、そして事故前後の状況といったところまで。



MRIやCTといった、肌理(キメ)やかな検査結果通りの反応を返してくれて。



あらゆるコトを事細かに覚えている…、ううん、何も問題など無かったのだ。




ただひとつ…、私という存在の記憶を除いて・・・




脳震とうを起こした人に、記憶障害が起こるのは稀でないらしい…。



但し、事故前後の記憶や、ある期間の記憶がスッポリと抜ける事が多数であり。



拓海のように“私だけ”が消える状態は物珍しいと、医師が頭を悩ませていた…。




そうして下された診断名は“逆行性健忘症”――




だけれど…、忘れられてしまった私は、どうすれば良いのですか…?




泣き叫びたいのを堪えて…、愛おしい人の冷たい視線と向き合っているのに…。




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