続きは、社長室で。2
大好きな声で“佐々木さん”と呼ばれたコトで、途端に息苦しさを覚えて。
まるで呼び方に拒否反応を起こしたように、グッと胸が締めつけられていく…。
「社長は…、佐々木さんを誰よりも可愛がってますよ…」
偽りばかりで彩られていく空気の中で、杉本さんがフォローを重ねた。
冒頭に彼の口から出された、婚約者というフレーズを払拭する為に――
でなければ、拓海には“私の存在”に疑念が募るばかりだったと思う。
あまりに言葉足らずで、浅薄な取り繕いだもの・・・
「そうだったのか…、申し訳ない…」
必死に笑顔を作って隠し通すつもりのハズが、表に出ていたのだろうか。
それとも人の顔色や考えを、瞬時に読み取れる拓海の能力からか…。
ブラウンの瞳は私をジッと見据えたあとで、他人行儀なお詫びをプラスした。
「っ…、い、いえ…。
た…、しゃ、社長に謝って頂く必要など・・・」
その万人に平等な優しさが、鋭利な刃物で貫かれるほどの威力があるのに…。
杉本さんが節々で籠めてくれた言葉の意味を、拓海が理解するコトはなくて。
矢継ぎ早に紡ぎ出したウソも、パニックからだと収まってくれたけれど…。
この瞬間から、近いようで遠いカンケイが形成されていたのね・・・