続きは、社長室で。2
秘匿の、始まり。


かつてナイほどの窮地に立たされたトキ、眼前には2つの道が用意されていた。



弱虫すぎる私の場合は、“逃げ”か“動く”かの二者択一というモノで。




愛おしいヒトの傍で、忘れられた婚約者として生きるか…――



関係をゼロにして、ただの社長と秘書の間柄となるのか…――



貴方に忘れ去られた事実に打ちのめされる中で、齎される究極の選択。



両者を選ぶにしても、私には酷すぎる選択でしかなかったのだけれど・・・





「蘭ちゃん…、本当にこれで良いの…?」


「はい…、勝手な事をして申し訳ございません。

ですから、こちらはお返しいたします…」


2人きりの中で切なげな彼女に、音を立てつつテーブルへと差し出したモノ。



それはサイパンで読んだ、手紙の中に封入されていた東条家に伝わる指輪だ。




あれから帰国の途についた私たちは、桜井さんのお迎えで自宅へと直行した。



理沙子さんとの再会を果たした彼は、いま病院で念の為に検査を行っている。




「でも、これは蘭ちゃんに…」


渋る彼女を制するように、笑顔を見せて首を数回フルフルと振った。



「今の私は、拓海にとって“秘書”ですから…。

だから、そちらをお預かり出来る立場にございません」


愛しい拓海の傍にいながら、記憶を失った私はただの“秘書”だからこそ。



この状態で持ち続けていれば、東条家の永代続く歴史にも失礼極まりナイ…。




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