続きは、社長室で。2
その瞬間に、忘れ去られたというアノ時のキモチが押し寄せてしまって。
グッと胸が締めつけられていくから、連動して涙が頬を濡らしてしまう・・・
路肩へとフェラーリを寄せて停車させた拓海に、シートベルトを外されると。
そのままグイッと、私の身体は運転席の方へと引き寄せられてしまった…。
「謝ってすむ事じゃないと分かっているけど…、ごめん・・・
蘭の記憶を取り戻せたのは、頭の中の混乱が収まった時だった…。
本当はすぐに抱き締めたかったけど…、後藤さんを泳がせる時間が必要だったんだ。
追い込むだけの証拠と銀行の合併に向けて、色々な探りを入れる為の…。
祐史や多くの部下が携わる中で、絶好のチャンスを逃すわけにはいかなかった。
オマエを傷つけて、犠牲にしたのは俺だ・・・
泣かせて、苦しませて…、強がらせて…ごめんな…」
「っふ、うぅ・・・」
「俺の為に…また秘書になると言ってくれた時・・・
どうすればオマエを巻き込まないで済むか…、毎晩ソレばかり考えてたよ。
結局は苦しませただけだ…、本当、愚弄しか出来ないな…――」
「っ・・・」
このまま消えそうなほどに、苦しみを滲ませた拓海の声色が涙を誘う。
拓海が動くというコトは、日本経済に何かしらの変化を齎すサインであって。
数え切れない程の人たちが関わる中で、私ひとりを優先出来る訳もナイもの。
“俺の担当から外れた方が良い”
サイパンから帰国するトキ、拓海なりに最良の言葉を選んでくれていたのに…。