お姫様と7人の王子様
お花見(ボウ)
さくら
「サクラ?ああこの木の事?」
目の前の桃色の綺麗な花を咲かせた木を見ながら、生意気そうな少年……ボウ=シャトルフルは言った。
横にいる彼より年上の少女、鈴村縲が彼に目の前の木を見ながら桜の様だと呟いたのが原因だ。
幹がとてもしっかりしていて、何百年とこの地にたっていそうなその木は彼女の故郷にある“サクラ”と言う木にそっくりらしい。
花の色、花の形、そして……ひらひらと舞い落ちる花びらの様子さえも……。
「うん……」
ボウの生意気な口調に慣れてしまったのか、もしくはその木に心奪われてしまったのか、何かを懐かしむようにその花びらの落ちる様子を縲は黙々と見つめていた。
そんな彼女の様子を見て彼も目線をその木に移した。
(こんなにじっくり見たのは初めてかもしれない)
ボウはこの家で過ごして何年か経ったが、今の今までこの木を気にかけることなんて全く無かった。
花より団子というより花より紅茶というようにこの庭はお茶会をする為に存在するだけで、その空間にどんな木が生えようが雑草のように勝手に生えている程度にしか感じていなかった。
「お姉さんは……面白いね」
こんなどうでもいい事を気にかける……。
だからと言ってそれはとても嫌なことではなく、寧ろボウの心の中には少しだけあたたかくなるような奇妙な感覚が生まれていた。
(だから僕はお姉さんに惹かれるんだ)
頭の中に浮かんだ言葉が少し照れくさくて、苦笑いをしながらの縲の事を見ると、彼は……時間が止まったように、急に動かなくなった。