脱走犬物語
物置に差し込む光がなくなり、あたりは本当の暗闇に包まれました。真っ暗で、街灯の光がこれっぽっちも見えません。その昔、散歩の途中でボクはけんちゃんが持つ手綱をちぎって、森の中へ駆け込んだことがあります。最初は自由を満喫して楽しかったのだけど、夜になり、真っ暗になると急に不安になりました。あの時は、結局けんちゃんの懐中電灯の光を見つけて帰れたのだけれど、今はこのドアに体当たりしても、ウンともすんともいいません。ドアが硬いのか、ボクの体力がずいぶん落ちてしまったのか、よくわかりません。おなかがすいて、キューキューいいはじめました。少し寒く、物音が一つもしないので不安です。おばあちゃんはどこへ行ってしまったのでしょう。人間なんてみんな優しくて、いい生き物なんだ。そう思っていた自分に急に腹が立ってきました。人間が犬を食べるのを見たことは無いし、ボコボコにけったりしているのも見たことがありません。もちろん、物置に閉じ込める人も見たこともありません。ボクが出会ったこれまでの人はたまたま親切だったのでしょうか?いや、たまたまだなんて信じたくない!絶対に!絶対に!
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