脱走犬物語
暗闇が冷たい空気と一緒に、物置のスキマから吹き込んできました。今ボクにできることは眠ることくらいしかありません。このままここでゆっくりと眠りについてしまうのでしょうか。目の前には、ゴンやアレックスの姿が浮かびます。彼らもみんな、この夜のとばりを感じながら遠くへ行ってしまったのでしょうか。足が棒切れみたいに間隔がなく痛いです。しばらくすると、脚の感覚がなくなっていきました。美しい花畑とか、綺麗なお月様はどこにも見えません。ボクは目を閉じ、想像してみることにしました。想像する世界だけは、誰にも邪魔させません。あのおばあちゃんは、きっと気がおかしくなっていたのでしょう。誰のせいでもありません。ボクは、けんちゃんや、パパとママにナンだか申し訳ないキモチで一杯でした。寒くて寒くて何も感じないほどだったけど、唯一、ほっぺたの辺りが何かでぬれているようで、何かがしたたり落ちていくようで、それだけがボクが生きているというあかしでした。