脱走犬物語
気がつくと、ボクはネオン街の小道を歩いていました。一体どうやってここまでたどり着いたのか想像もつきません。ただ、クビにはまだ縄がついているし、後ろに木製の柱はついてないから、無理やり引きちぎってきたのでしょう。ボクにこんな底力が残っていたとは信じられません。けんちゃんたちのところに早く帰らなければ。そう思い、ボクはあたり一面の匂いをかぎました。電柱のすみっこやアスファルトの草花、自動販売機の隅っこにまで横に横に鼻をかぎ分け、ゆっくりと何度も立ち止まりながら徐々に前へ進んでいきました。

「おい!おめえ。どっから、来たんだぁ」

なんとなく、そう言ってきたやつがいたかと思い、振り返るとそこには三匹ののら犬がいました。

「見慣れない顔だな。ずいぶん老けているじゃねえか」
汚らしい、茶色と黒と白の犬たちがボクをあざ笑うかのように睨んできます。やがて三匹の犬たちは、ボクの前へとたどり着きました。

「人間様の匂いがするぜ!コイツ!いい暮らししてるな」
茶色いやつがそうまくし立てました。

「なんだい!俺達の縄張りに何のようだい!?」
黒くて体にブツブツのあるオオカミ犬が早口で言ってきました。目つきがとても恐いです。
人の愛を受けずに育つと犬はこうなるのでしょうか。いや、犬は本来こういう生き物なのかもしれません。

「ケ!食ってもうまくなさそうだな!どうぜオウチであったかいご飯が待ってるんだろ!?」

いつのまに、ボクは犬らしくなくなってしまっていたのでしょう。ボクは生まれてすぐの時にけんちゃんに拾われました。アレックスやマリー、ゴンだって小さなときから人間に育てられているはずです。そういうボクたちは、一体なんなのでしょう!?犬ではなく、違う生き物?だけど、すくなくともこんな愛の欠片もないやつらに生まれなくてボクはよかった!!ボクのママは、ボクを生むとすぐにいなくなってしまったのだけど、きっと彼らみたいな犬ではないでしょう。

ノラたちは、やがて深い夜の闇に消えていきました。冷たい木枯らしが彼らの後を追うように素通りしていきました。

ボクは、ボクでよかった。本当によかった。
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