脱走犬物語
翌朝。

「じゃ、行ってくるね。おるすばんだよ!」

けんちゃんはそう言って、パパやママと出かけていきました。ブオンブオンという車の発進音が聞こえてきます。しばらくすると、シーンとしたいつもの空気が耳を伝ってきます。
ボクは水をゴクゴクいつもよりたっぷり目に飲んだ後、すこし開いたリビングの窓を見やりました。ママは時折、換気のために開けた窓を閉め忘れるクセがあるのです。鼻のよこっちょで窓を押し寄せるとズズズっと音がして意外と簡単に開きました。ボクのカラダは細いから、20cmも開けば外に出られます。

「必ず、戻ってくるからね。」
そうしてボクは、最後の旅へと出かけました。

***

ボクがはじめて、一人で家を出たのは、今から16年も前のことです。あの時は、みんなに心配をかけて今でも本当に悪いことをしたと思っています。当時外犬だったボクは、鎖を引きちぎり、街の中へと繰り出しました。あの時は結局、1泊2日で家へと戻ってきました。こっそり犬小屋まで戻って、昼ごろ目が覚めたとき、ママはボクの前で涙を流して喜んでいました。
二回目の旅はその数ヵ月後です。その時は、すっかり迷ってしまって、帰れなくなってしまいました。が、運良く隣の坂内さんを見つけて、トコトコついていったら、坂内さんに近所のスーパーに鎖でつながれてしまいました。そしてママがやっぱり涙を流して迎えにきました。3回目の旅はそれから、3年後。この時は、車で探しに来ていたパパとけんちゃんを偶然見つけて、車の後をつけて無事帰ることができました。家の前で、二人は笑ってビックリしていました。
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