今日から執事
何なんだ、この人数…。
真斗は今、自分の目を疑っている。
軽く百人を超える使用人たちが目の前にずらりと並んでいるのだ。
どうしてか、凄く居たたまれない気分になる。
一家にこれだけの使用人は明らかにおかしくないか?
自分の常識までもを疑ってかからなくてはいけない事を学習した。
「今日から約二ヶ月間、ここの従者となる桐谷さんです。
さ、挨拶を」
松山に促され一歩前に出て挨拶をする。
「本日付けで参りました、桐谷真斗と申します。
宜しくお願いします」
その場で一礼してから顔を上げると使用人の人たちが笑顔で真斗を迎え入れた。
その時、真斗が
俺の親父と違って優しい人たちだな。
などと考えていたことはまた別の話だ。
「桐谷さんの指導は神嵜さんに一任します。
それでは皆さん仕事に戻って下さい」
手を叩いて合図した松山の言葉をキッカケに使用人たちが散っていく。
その中には執事、シェフ、メイド、庭師、運転手などがいてその数の多さだけで樫原財閥がどれほど有能で且つ、有数な財閥なのかが見て取れる。
「桐谷さん」
急に名前を呼ばれて、奇声を発しそうになるのを必死に堪えながら声の主を見る。
「これから宜しくお願いしますね。困ったことがあれば言って下さい。
それから、ここでは私の事はチーフと呼ぶように」
最後に気の良い笑みを見せ、松山はゆったりとした足取りで歩いていった。
その背中に真斗は声もなく御礼を言う。
もう乗り掛かった船だ。こうなったら最後までやり遂げてやる。と強く拳を握った。
瞬間、いきなり肩を叩かれ真斗は本日二度目の奇声を発しそうになった。